第45回:意外と腹黒?孫家三代の裏の顔に迫る
文:中国エトセトラ編集部「三国志演義」での孫堅は、偶然玉璽を入手し野心を抱き隠匿する…。
青年期を生き急ぐように奮闘した孫策。「三国志演義」での末期は悲惨である。
呉を発展させた孫権は、三国時代を生き抜く才の持ち主だったのだろう。
孫策、孫権の下で暗躍した?張昭。その野望は他の臣下により抑えられたか?
劉備、曹操といった稀代の英雄が一代で築き上げた蜀や魏と比べて、親子三代に渡って領土拡大を図ったことから、どことなく親子間、主従間の仲が良いイメージのある呉の武将たち。だがその足跡を辿ってみると、彼らの腹黒い部分もちらほらと目についてくる。そこで今回は、孫堅、孫策、孫権ら呉の君主と、彼らを取り巻く人々の裏の顔をクローズアップして紹介したい。
孫堅(156年~192年)
10代の頃より、海賊退治や宗教勢力の反乱鎮圧で頭角を現し、江東一帯に名が知られるようになった孫堅は、噂を聞きつけた漢王朝より荊州・長沙の太守に任命される。その後、反董卓連合に加わった彼は、上洛の際、どさくさにまぎれて上官や出世争いのライバルたちを次々と斬り殺し、勢力の拡大に成功する。その野心と圧倒的な兵力は、連合軍内部でも警戒されていたようで、合戦の真っ最中に兵糧の補給を止められるなど、同陣営にも彼のことを快く思わない武将は大勢いたという。 ちなみに董卓は、そんな孫堅の武勇を恐れて、全面降伏にも近い懐柔策に乗り出すものの、さらなる栄達を望む彼はこれをはねのけ、両陣営は武力衝突に発展! その結果、董卓は洛陽の町を焼き払うという暴挙に出たわけだが、もしも交渉の段階で孫堅が平和裏に事態を収拾していれば、歴史は違った形になっていたかもしれない。孫策(175年~200年)
父・孫堅の頓死により、わずか17歳で跡を継ぐことになった孫策。「三国志演義」の影響から"袁術にこき使われるかわいそうなティーンエイジャー"といったイメージが強い彼だが、実際は、二代目になるはずだった孫賁(そんふん:孫堅の甥)からその座を強引に譲り受け、黄蓋(こうがい)や韓当(かんとう)、程普(ていふ)といった強面武将とともに、袁術の寝首をかくタイミングを虎視眈々と狙っていた、孫堅以上に攻撃的な正確の人物だったと言われている。 やがて幼馴染にして無二の親友である周瑜と再会した孫策は、怒涛の勢いで領土拡大に乗り出し、わずか数年で呉の基盤となる広大な領土を支配下に収めていく。この頃、孫策と周瑜は大喬(だいきょう)、小喬(しょうきょう)という美人姉妹をそれぞれの妻に迎えているが、これは世間を欺くための偽装結婚で、実は二人はBL関係にあった...という説も、まことしやかにささやかれている。孫権(182年~252年)
向かうところ敵なしだった孫策が26歳という若さで急死したため、その跡を継ぎ三代目君主となった孫権。しかしその就任劇の背景では「孫権が呉の官房長官的存在・張昭(ちょうしょう)と結託して、孫策を暗殺した」という黒い噂も流れている。実際、陰謀史観の論理に基づいて考えると、孫策が死んで一番得しているのは孫権であり、即位後は決して兄の息子たちに王位を譲ろうとしなかった姿勢も、噂に真実味を持たせている。 ちなみに孫権は、かなり優柔不断な性格で、父や兄と違って領土拡大にもほとんど興味を示さなかったと言われている。そのため終生、家臣たちの意見に振り回され続け、国家運営についても特定の方針を導き出すことができなかったという。蜀や魏に比べると、呉はどうも中途半端なイメージがあるが、これはどうやら孫権の性格が大きな要因となっているようだ。張昭(156年~236年)
孫策が旗揚げした際に参謀として招き入れられた張昭。だが、もともと都の出身であり「中国はひとつの国が統一支配するもの」という考えが身に染みついていた彼にとって「中国を分断して、各国がそれぞれの領土を支配する」という考えは、許容できるものではなかった。当初は、孫策の領土拡大を「いずれは朝廷に返上するもの」と考え、協力していた張昭だったが、その意思がないことを知るや、優柔不断で御しやすい孫権と結託し、これを暗殺。曹操に降伏して、領土を全て漢王朝に返還しようと画策する。 だがそこに、呉の独立を主張し徹底抗戦を唱える武闘派、周瑜や魯粛らが台頭。孫権は彼らの言葉を鵜呑みにし、赤壁の戦いで曹操軍を返り討ちにしてしまう。これ以降、孫権は降伏を主張した張昭よりも周瑜たちの意見を聞くようになってしまい、彼の目論見はご破算となってしまった。今回紹介したのは「三国志」関連のコミックや書籍に掲載されている、各人物の意外な側面に関する記述をピックアップしたものだが、このように視点を少しずらすだけで、各キャラクターの関係性は大きく異なって見えてくることがよく分かる。「三国志」の物語はバッチリ把握しているという人も、こういった別視点から物語を追った書籍をチェックすることで、それまで気づかなかった新たな発見が出来るようになるはずだ。