第15回 「歴史群像」新井編集長に聞く、日本における中国史ファンの現状とは!? 文:中国エトセトラ編集部


“戦略・戦術・戦史”に関する検証を中心に、歴史のおもしろさを提唱する雑誌「歴史群像」(ただいま8月号が絶賛発売中!)。これまでにも「墨子の兵法」や「モンゴル騎馬軍団」など、独特の視点から中国史に切り込んできた本誌で舵取りをされているのが、先日行なわれた『大秦帝国』トークショーにもご出席いただいた新井邦弘編集長です。 “軍事”の面から、春秋・戦国時代のおもしろいエピソードをたっぷり語っていただいたので、印象が強く残っている中華歴史ドラマ・ファンの方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな新井編集長に改めてドラマ・シリーズの見どころや、日本における中国史ファンの現状について語っていただきました。


編集部(以下:編):「歴史群像」の構成が、戦略や戦術の解説が中心となっている理由を教えてください。

新井編集長(以下:新):もともと歴史ファンには “乱世”と呼ばれる時代が人気で、日本史では戦国、幕末、太平洋戦争などの時代が該当しますね。この時代にはたくさんの英雄が活躍し、ドラマチックな戦いが数多く繰り広げられています。そこで展開される戦術や戦略について知りたいという人も多いのではないかと思ったのが、構成のそもそものきっかけです。 一方、中国史のファンは、故事成語や文学作品を通して、そこで描かれる人間ドラマに興味を持つ人が多いようで、武器や軍事への関心はあまり強くなかったように思えます。そこで、やるからには国や時代を問わず徹底的に踏み込んで分析しようと考え、実践してみたところ見事にヒットしました。


編:具体的に、どのような特集を組まれたりしたのですか?

新:中国の武器の歴史を調べる上で、弓や弩(ど)はいつごろ出来たのか? また、威力はどれ程のものか? などの検証を企画しまして。その時は武器を実際に作ってみたりもしましたよ。古代の資料を調べていくうちに「せっかくなら自分たちで作って、威力を直接確かめてみよう」という流れになったんですね(笑)。ちなみに『大秦帝国』に出てくる投石器も作った事があります。こういったアプローチが、クラシックな歴史ファンだけではなく、漫画やゲームを通じて中国史に入ってきた方たちにもウケたんでしょうね。


編:そういった中国史ファンの間では、どの時代が人気なのでしょう?


新:やはり「三国志」は別格ですね。そこを入り口にして、中国史に入ってくる人が圧倒的に多いです。そこから司馬遼太郎さんの小説にハマって「項羽と劉邦」の時代に興味を持ったり、「史記」で描かれる春秋・戦国時代に流れていくというパターンが主流なのではないでしょうか。この時代も「三国志」に負けず劣らず、様々な英雄が登場しますからね。孫子や墨子といった著名な兵法家も活躍しますし。また、軍事の面から見れば、騎馬民族と農耕民族の文化が融合した元の時代もおもしろいし、日本とも縁のある明の時代も調べ甲斐がありますね。

編:その観点から、最近の中国エンタメ作品は、どんな面白さがありますか?


新:最近は、衣装や武器の作りこみが、以前と比べるとだいぶしっかりしていますよね。職業柄、劇中で描かれる軍事面に目がいくのですが、時代考証はやはり気になりますね(笑)。 中華歴史ドラマ列伝では、主役級の俳優の芝居がウマイですね。言葉が分からなくても、観ているだけで気迫や意志が伝わってきて、その世界観に引き込まれます。 また、兵士たちが騎乗したまま剣を振り回して戦うシーンなどドラマ的なフィクションもありますが、歴史の知識と映画的な演出を、ともに分かった上でドラマを楽しめば良いのでは、と思っています。


編:「中華歴史ドラマ列伝」の登場人物で、お気に入りのキャラクターはいますか?

新:『復讐の春秋 -臥薪嘗胆-』の勾践(こうせん)が良いですね。主人公ではあるけれども絶対的な善人ではなく、かといって悪人でもないという描かれ方が絶妙です。そもそも本編が復讐の物語ということもあって、完全な善人として描けないのだろうけど、それが勾践を魅力的な人物として見せるのに一役買っているのではないでしょうか。 そして、彼が絶対的な正義ではないので、脇役の意見や考え方の方が正しく思える場面があったりするのもおもしろいです。各人物が、それぞれ国を大切に思うからこそ対立する論争シーンの緊張感は、本当によく出来ていると思います。

編:中国史を扱ったエンタテインメント作品の今後について、見解をお聞かせください。

新:「三国志」のファンの関心が、どう他の時代に転換されるかがカギですよね。『レッドクリフ』がヒットしたからといって、同様に「項羽と劉邦」を映画化してもヒットするとは限りませんから。けれどもこうしたエンタテインメントの挑戦は、中国史そのものに関心を持つきっかけになります。そういう意味では、こうしたドラマは中国史への敷居を下げてくれる良い入口と言えますね。春秋・戦国時代や『-大明帝国- 朱元璋』の舞台である明の時代など、さまざまな時代を描いたドラマがどんどん送り出されることで、中国史の連続性が目に見える形で形作られれば、ファンの裾野はもっと広がると思います。


――新井編集長に語っていただいたとおり、中国には「三国志」以外にもまだまだおもしろい時代がたくさんあります。これからも、それらの時代を描いたドラマ作品を続々とご提供していくことで、中国史のおもしろさをより多くの皆さんに体感していただきたいと思います。また、その際「歴史群像」でさらに詳しい知識を身につけておけば、ドラマがより一層楽しめることは間違いないでしょう。


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「歴史群像」の新井邦弘編集長
1:「歴史群像」の新井邦弘編集長が、中華歴史ドラマの魅力を語ってくださいました

最新の「歴史群像」を携える新井編集長
2:最新の「歴史群像」を携える新井編集長 

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『大秦帝国』トークショー時の新井編集長(左)と阪南大学教授・来村多加史氏(右)
4:先日実施された『大秦帝国』トークショー時の新井編集長(左)と阪南大学教授・来村多加史氏(右)

「歴史群像」編集部
5:「歴史群像」編集部にもお邪魔してきました

勾践
6:新井編集長のお気に入りキャラクター・勾践

『復讐の春秋 -臥薪嘗胆-』
7:勾践の活躍する作品『復讐の春秋 -臥薪嘗胆-』http://chuka-drama.com/gashinsyoutan/


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