第10回 武器が分かれば歴史が読める!? 中国武器の真実を徹底追究!! 文:中国エトセトラ編集部
現在DVD-BOXが発売中の「朱元璋」や6月6日公開の『大秦帝国』など、話題作がめじろ押しの中華歴史ドラマ列伝シリーズ。数多の英雄や魅惑のヒロインらが活躍する本シリーズだが、その見どころのひとつは、何と言っても大軍勢が入り乱れて展開する大迫力の戦闘シーン! 登場人物たちが携える武器や防具の数々も、一昔前の歴史ドラマではまるで京劇のような、見栄えだけで現実味のない装飾品が使用されていましたが、近年では史実に基づいたよりリアルな武器や防具が使用されるようになっています。
編集部(以下:編):お世話になります。早速ですが、磯野さんが「武器屋」を始められたきっかけは何だったのでしょうか? 磯野氏(以下:磯):大学時代から、ずっと軍事関係の研究をしていたんです。その時、調べれば調べるほど、武器に関するデータが不足していることに気付きまして。研究の為にいろんな武具を集めたかったんですけど、費用もかかるじゃないですか。そこで、集めた武器で商売をすれば研究費も賄えるんじゃないかと思いついて、本店の開業を決めたんです。 編:(店内を見渡しながら)西洋、東洋を問わず、たくさんの武器を扱っていらっしゃるなか、意外と中国製の武器だけ数が少ないように思うのですが…。 磯:実はですね、市場に出回っている数自体が少ないんですよ。日本の刀や西洋の武具はマンガやゲームの影響もあって、いろんな種類のモノが出回っています。けれども中国というと、素手で戦うカンフー映画のイメージが強いじゃないですか。なので“中国の武器”という概念が、日本ではあまり定着していないのが原因です。実際のところ需要はあるんですけど、そのほとんどが太極拳の練習に使うような、競技用の武器や防具ばかりですね。 さらに本場中国では、資料として保存されている武器や防具が他の国に比べて圧倒的に少ないんですよ。だからレプリカを作成しようにも元となる資料がほとんどないので、バリエーションに富んだ武器が作りにくいんです。 編:けれども映画やドラマには、さまざまな武器が出てくるように思いますが。 磯:それはほとんどが、清の時代に作られたもののレプリカなんですよ。清朝は歴史的にも現代に近いし、比較的たくさんの武具が保存されているので、映画の小道具や衣装を作る際は基本的なデザインとして、よく流用されるんですね。 編:ちなみに「三国志」に出てくる青龍偃月刀や蛇矛といった武器は、いつの時代に作られたモノなんですか? 磯:関羽や張飛といった英雄たちが活躍した後漢の頃には、あんなにたいそうな武器は存在しなかったといわれています。実際のところ、青龍偃月刀は宋の時代、蛇矛は明の時代にそれぞれ開発された武器だそうです。「三国志演義」自体が、史実より1000年以上も経った明の時代に書かれた小説なので、その当時使用されていた武具の中から作者の羅貫中(らかんちゅう)が、登場人物らに相応しい武器をチョイスして勝手に持たせてしまったのが、いつの間にか定着してしまったんです。 編:そうなんですか!? 他にも、武器に関するおもしろい話はありませんか? 磯:それじゃあ、中国の武器開発の歴史についてザックリと話しましょうか。まず『大秦帝国』の舞台である春秋戦国時代は、軍隊の主戦力は戦車でした。で、それを倒す為に開発されたのが、(『大秦帝国』のポスターを指差しながら)この兵士たちが手にしている戈(か)という武器なんです。これは先端が鎌のような形状になっていて、戦車に乗っている敵に引っ掛けて転落させたり、直接斬りつけたりするのに有効でした。けれども、戈が活躍した時代はそんなに長くは続きませんでした。間もなく戦車に取って代わり騎兵隊が登場するんです。あまりにも早く動き回る上、近づけば槍で、離れれば弓で攻めてくる騎兵に対し、近づかなければ真価を発揮しない戈では歯が立たず、ほどなくして戦場から姿を消してしまうんです。戦術の進化とともに武器の盛衰もあるわけです。 編:それからは騎兵隊が戦場の主役となったんですね。 磯:そうです。以後、その流れは2000年近く続いて、他国では銃火器が主戦力となっていた清朝の末期まで、中国では騎兵隊が主力として活躍していました。実際のところ、明の時代には国内外で鉄砲が開発され、40000丁もの銃が購入されたとの記録もあるんです。けれども、当時の銃は性能がいまいちで、一発撃つのに手間がかかる上に射程距離も50m程しかありませんでした。当時の軍人たちは「それぐらいの距離なら騎兵で一気に攻めかかれば問題ない」と考えたんでしょうね。結局それが、中国の銃器開発を大幅に遅らせる原因となってしまったようです。 編:先ほどご説明いただいた戈を含めて、中華歴史ドラマ列伝シリーズに登場する武器の出来栄えはいかがでしょうか? 作品そのものの感想なども聞かせていただけるとうれしいです。 磯:『大秦帝国』の試写を観させてもらいましたが、こんなに壮大なスケールの作品をよくぞ撮りあげたッ!って感じですね(笑)。この時代って日本ではまだまだマイナーだけれども、本当におもしろいエピソードがいっぱいあるんですよ。それを取り上げて映像化してくれたことがうれしいです。それに武器や防具もしっかりと作り込まれていて、実物と比べても見劣りしない出来ですね。よく調べてあるな〜と感心しながら拝見しました。 歴史ドラマを描く時って、「史実をどこまでリアルに再現できるか」というのが、大きなポイントになると思います。それを逸脱してしまったら、ただの空想物語になってしまいますからね。この作品からは、武器や防具などの装飾品にまで気を配って、丁寧に物語を作り上げていこうという強い気持ちが伝わってきました。 “武器”にクローズアップして中国の歴史を追っていくと、「新しい武器や量産向けの武器が開発されるのは戦争があった時代。逆に、武具の装飾に細部にまでこだわり出すのは戦争のない平和な時代」といった具合に、武器開発の流れと歴史が深く関わりあっていることがよく分かります。このように新しい視点から物語を追っていくことで、単にドラマとしてだけでなく、中国の歴史そのものを理解し楽しむことも出来るようになります。 是非みなさんも、独自の視点から中華歴史ドラマシリーズを楽しんでみてください! |
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