第7回 「末代皇妃」にも登場する男装の麗人 文:中国エトセトラ編集部


3/4に発売された中華ドラマ列伝シリーズの最新作「末代皇妃 〜紫禁城の落日〜 DVD−BOX I(6枚組)」(DVD−BOX IIは4/3発売予定)。
清王朝滅亡後の中国を舞台に、“皇帝の側室”という身分を捨て、新しい人生を切り開くため邁進し続けた女性・文繍(ぶんしゅう)の波乱に満ちた半生を描いた歴史大作である本作は、魅力的な女性が多数登場する点も見どころの一つ。その中でも一際異彩を放つのが、事あるごとに文繍の命をつけ狙う“男装の麗人”川島芳子(かわしまよしこ)という女性の存在です。
2008年の年末には、黒木メイサ、真矢みきらが演じて話題となったTVドラマ「男装の麗人〜川島芳子の生涯〜」(テレビ朝日系)が放映されるなど、川嶋芳子は日本とも関係性の深い女性。今回は、この川島芳子という人物がいったい何者で、どんな人生を歩んだのかを「末代皇妃〜」本編では描かれていない部分も含めて紹介していきます。

1907年、川島芳子、本名・愛新覚羅顕シ(あいしんかくら けんし)は、清朝の皇族・粛親王(しゅくしんおう)の第14王女として生まれます。ですが、王朝はすでに衰退の真っ只中で、結局5年後には滅亡。その内乱から逃れて日本に渡った彼女は、陸軍通訳官・川島浪速(かわしまなにわ)の養女となり、以後、“川島芳子”と名乗るようになります。若い頃は、突如、頭を丸め男装を始めたり、大陸に渡って蒙古族の青年と結婚したり、上海の街で毎晩のように遊び回るなど、自由奔放な行動が目立ったようです。
そんな彼女も、陸軍少佐・田中隆吉(たなかりゅうきち)と出会ったことで人生に転機を迎えます。明晰な頭脳と優れた語学力、そして“清朝の王女”という肩書きが気に入られ、諜報部員としてスカウトされたのです。以後、彼女は大陸進出を狙う日本軍に協力する形で、スパイ活動に従事していくことになります。「末代皇妃 〜紫禁城の落日〜」では、これ以降の川島芳子、つまりスパイとして活躍していた頃の彼女が登場する訳です。

1931年、日本軍は“ラストエンペラー”愛新覚羅 溥儀(あいしんかくら ふぎ)を満州国の皇帝に迎え入れるべく、列強諸国の監視下にあった天津の街より脱出させます。このとき芳子は、一人取り残された皇后・婉容(えんよう)の救出に成功、その後も数々の諜報活動を続けていきます。この頃の彼女を「末代皇妃 〜紫禁城の落日〜」では、溥儀の正室である婉容には同情を、溥儀を見捨てようとする文繍は激しい憎しみをぶつける人物として、実に印象的に描いています。これらの活躍ぶりから芳子は、世界的に有名な女スパイになぞらえ「東洋のマタ・ハリ」と呼ばれるようになり、一躍、時の人となってゆきます。 満州国に“清王朝の再興”という夢を重ねていた芳子。しかし、侵略行為の陣頭指揮を執るうちに、満州国が日本の傀儡国家に過ぎなかったことに気付いていきます。次第に失望感を募らせ軍部に居場所を失っていき、やがて第2次世界大戦が終結すると、彼女は中国国民党政府に捕えられてしまいます。その罪は、国家反逆の罪に相当する漢奸罪(かんかんざい)。1948年、銃殺刑に処せられ波乱の人生に幕を降ろすのでした。

(日本編)
「東洋のマタ・ハリ」をはじめ「男装の麗人」「東洋のジャンヌ・ダルク」など様々な異名を持ち、当時の人々からは尊敬と憧れの対象として捉えられていました。また近年では、日本軍により満州国建国のプロパガンダとして利用された挙句、切り捨てられた悲劇の女性としての面がクローズアップされるようになり、映画・舞台のみならず、数多くの書籍にも取り上げられています。

(中国編)
清朝の王女でありながら日本軍の手先となって侵略行為の手助けをした“売国奴”としてのイメージが強く残っており、長年にわたり歴史を騒がせた悪女として認識されていたそうです。しかし最近では、日本軍に身を置きながらも、その非道な侵略に対し反対の姿勢をとり続けた人物として、再評価の動きも見られるようになってきているとのことです。

男装の麗人・川嶋芳子が断髪したのは、彼女が17歳の頃。その男装姿は新聞にも取り上げられるほど注目を集め、彼女を一目見ようと連日、ファンが押しかけてくるほどの人気だったとか。また、満州国時代には歌手としてレコードも発売され、あの李香蘭ら映画スターとも交流があるなど、軍に身を置きながらも“華”のある女性であったことは間違いないようです。
日本の映画では、昭和初期の伝説的な大女優・入江たか子(「満蒙建国の黎明」)、新東宝の看板女優だった高倉みゆき(「戦雲アジアの女王」)が、TVドラマでは前述した黒木メイサ、真矢ミキのほか、江角マキ子(「流転の王妃・最後の皇弟」)、菊川怜(「李香蘭」)が演じており、やはり川嶋芳子=美人のイメージが強いようです。「末代皇妃 〜紫禁城の落日〜」のリー・ユイもキレ長の目が印象的なクールビューティなので要チェック! 本ドラマでは残念ながら敵役の役回りだが、川嶋芳子の数奇な運命を把握した上で鑑賞されると、「末代皇妃 〜紫禁城の落日〜」の楽しみ方は2倍・3倍と膨らむかもしれませんね。


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「末代皇妃 〜紫禁城の落日〜」
「末代皇妃 〜紫禁城の落日〜」

執拗に文?(左)を付け狙う川島芳子(右)。
執拗に文繍(左)を付け狙う川島芳子(右)。命懸けの攻防は興奮!

“ラストエンペラー”溥儀(左)の親戚に当たる
皇族の血を引く芳子は“ラストエンペラー”溥儀(左)の親戚に当たる

日本軍に従事する芳子
日本軍に従事する芳子。「男装の麗人」の異名通りの凛々しい出で立ち

「清朝十四王女 川島芳子の生涯」
「清朝十四王女 川島芳子の生涯」(著:林えり子/ウェッジ文庫 刊)
歴史に翻弄された“一人の人間”川島芳子の数奇な運命が描かれている

「男装の麗人 川島芳子伝
「男装の麗人 川島芳子伝」(著:上坂冬子/文春文庫 刊)
大量の資料や親族の証言をもとに、川島芳子の素顔を明らかにしていく検証本

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