第1回「中国歴史物、日本人は既にハマってる!?」(漫画編) 文:中国エトセトラ編集部
やっぱり外せない!横山光輝「三国志」
映画『レッド・クリフ PART1』はTVCMで、「まさかの大ヒット!」と配給会社側もわざわざ驚きをアピールするほど日本でヒットしている(12月上旬現在)。その背景には、「三国志」モノの日本での根強い人気が根底にあるのは言うまでも無いが、全国公開の映画で大ヒットをかっ飛ばすとは、まさに「まさかの!」である。 日本の「三国志」人気の根底には、故横山光輝(2004年没)の漫画「三国志」の存在なくして語れないだろう。横山版「三国志」は1971年から1986年、15年の歳月を要した歴史漫画の名作(全60巻・文庫版は全30巻)。かくいうわたくし筆者も全巻そろえているし、息子の名前に三国志に登場する武将から一字をいただいていたりする。高校時代の友人に久しぶりに会ったところ、「実はオレもそうなんだ」などと告白され、彼の息子の同級生には、まんま"孔明"という名前の男子もいたりするのだとか。話は脱線したが、漫画「三国志」が、どれほど日本の20代後半以上の男性たちに圧倒的な影響を及ぼしていたかを示す一例である(と信じる)。 名作「史記」ほかこんなにたくさんある中国歴史漫画 横山光輝氏が手がけたのは「三国志」だけにあらず、のちに数多くの中国物の手がけることとなる氏が第一弾として着手したのが、北宗時代を舞台にした英雄譚「水滸伝」(連載1967〜1971)。そして、秦打倒に立ち上がり、やがて覇権を争うことになるライバル2人を主人公にした「項羽と劉邦」(連載1987〜1992)などが有名。そんななかで、歴史家・司馬遷(しばせん)によって書かれた歴史書をベースに、「三国志」以前の時代を描いた長編漫画「史記」(連載1994〜1998) は、多くの人たちから高い評価を受ける作品である。 斉の桓公の時代(春秋・戦国時代)から漢の武帝にいたるまでをフォローし、さまざまな国の興亡、英雄たちの生き様が描かれるとともに、"牛耳る""屍に鞭打つ""刎頚の友"といった故事成語・諺・歴史用語が生まれたエピソードなどがつづられ、思わず「ためになるなぁ〜」とうならせられる。漫画ならではの読みやすさで、長編ながらもサクサクと読み切れてしまうのが魅力だ。 春秋戦国時代から秦の時代は、他の漫画家も着手しており、アンディ・ラウ主演で映画化された「墨攻」(森秀樹)や、現在週刊ヤングジャンプに連載中の「キングダム」(原泰久)、台湾出身で日本漫画家協会賞を受賞し注目された鄭問(ちぇん うぇん)の「東周英雄伝」など数多い。 そのほかの時代では、北宋時代の伝奇アクション「北宋風雲伝」(滝口 琳々)、清朝末期の革命家・洪秀全を主人公にした「太平天国演義」(甲斐谷忍)など。歴史物ではないが、グルメ漫画「中華一番」(小川悦司) は清朝末期、北斗神拳伝承者の物語「蒼天の拳」は、日中戦争直前の中華民国を舞台にしている。中国ほど日本の作品の中で、様々な時代を舞台にされる国はないと思われる。さすがは四千年の歴史、奥が深い! 大河ドラマ的にハマる中華歴史ドラマ列伝。 中国の歴史物は、すでに日本人に漫画として広く親しまれ、史実的な知識はつぎはぎながらも頭に刷り込まれているといっても言い過ぎではないと思う(強引?)。で、ようやく(発売・販売元さんゴメンなさい)、今回の歴史ドラマ列伝の話になるのだが、そのあたりの時代感をもったうえで、楽しんで(楽しみにして)もらって大いに結構の秀作・傑作ぞろいだ。 北宋時代・清朝末期・中華民国と、3つの時代にわたり守られ続けた敦煌の秘法を題材にした『大敦煌』は、全50話からなる一大巨編。史実をもとにしたフィクションで、合戦シーンの迫力のみならず、戦略的な駆け引きや、異国侵略に対する愛国心など、複数のテーマが巧みに盛り込まれ、いったんハマると抜け出せなくなる、歴史物ならではの面白さがある。中国国営テレビ製作(製作費はなんと6億円!!)なので、NHKの大河ドラマのスケールアップ版とイメージしてもらえれば。 清王朝最後の皇帝・溥儀(ふぎ)の妃・淑妃(しゅくひ)と文繍(ぶんしゅう)の生き様を追いながら、中国封建時代の崩壊を描いた『末代皇妃−紫禁城の落日−』、貧農の家の生まれながらも明王朝の創始者になった英雄の物語『大明帝国−朱元璋−』も同様、大河ドラマ的な味わいが満喫できる秀作である。天才剣士たちのチャンバラが迫力満点で、武術使いのキャラもたっていて対戦ゲーム的なアクション色が強い『シルクロード英雄伝』(北宋時代)も必見。『臥薪嘗胆』(仮題)『大秦帝国』(仮題)は漫画「史記」のなかの物語、となればその実写映像版として期待は膨らむであろう(筆者もこれらは未見です)。 中国歴史を題材にした漫画は長編が多い。とすれば、ドラマシリーズとして楽しむのが適切では、と筆者は考えたりもします(「レッドクリフ」も「三国志」の赤壁の戦いだけのエピソードだしね)。漫画を読んでから中国歴史ドラマ列伝を楽しむもよし、中国歴史ドラマ列伝を見てから漫画を読むもよし。ともかく歴史物好きの人には、中国歴史ドラマ列伝はオススメのシリーズであることは間違いないでしょう。じっくり腰を据えて見てほしい。 |
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